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<<第54夜
アマ無線千夜一夜物語(第五十五夜) 00/05/20 05:00
今夜は、I君とその弟のトラッカーからの話。
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I君:先日パチンコ屋に行ったら、トイレの中でトランシーバで話
してる奴がいたんだ。
PXB: えー、そんな所で?
I君:そんで、ゴト師の連絡と思って聞き耳を立てたんだ。そした
ら『今夜のおかずは何ですか?オーバー』とか『ピーちゃん
に餌やりましたか?オーバー』なんて言ってるんだよ。
PXB:いいぐあいに壊れてますね。
I君:それで、家に帰って弟に笑いながらその話したら、びっくり
した顔をして、その男の特徴を聞いて来るんだよ。『香港映
画のサモ・ハン・キンポーを40キロ位やせさせた男だ』と
言ったら、『風戸だあーーー、わっはっはっは』大笑いして
やんの。聞くと弟の勤めている運送会社の先輩で、超ーーー
変なやつらしい。
PXB:どう変なんだよ?
I君:とにかく、無線機やトランシーバで話すのが大好きで、普段
は無口なんだけど、マイクを持つとがらっと人が変わるらし
い。そして、運転中に弟なんかの車にどんどん話しかけてく
るらしくてさあ。
その内容っていうのが、『日本って国は、どうしてこんなに
車が多いんですか?オーバー』とか『ネコと犬、どっちがす
きですか?オーバー』なんて、超どうでもいいことばかりら
しいんだ。
PXB:わっはっはっはっは。
I君:そんなわけで、会社の古株は風戸くんから無線が入ってもぜ
んぜん相手にしないんだけど、入社したての頃はずいぶんや
つに捕まったらしいんだよ。奴の通信のしかたがさ、最初は
『チロチロチロ、チロチロチロ、調子はどうですか?オー
バー』と言って、話しかけてくるんだって。
PXB:何ですか、そのチロチロチロってーのは?
I君:うん、だからうちの弟も不思議に思って、会社の先輩の運転
手に聞いたんだ。そしたら『あー、あれは小鳥のさえずりを
表現しているみたなんだ』と教えられたんだって。つまり、
風戸君は、朝の清々しい雰囲気をチロチロチロという小鳥の
声で、相手に伝えているらしいんだ。どうも。
PXB:わっはっは。そいつ頭おかしいよ。
I君:で、そのチロチロの後に、『ネコと犬、どっちが好きです
か?オーバー』なんていう超どうでもいい問いかけが、延々
と続くらしいんだけど、そんなもん10分もすりゃ、聞いて
いる方がいやになるだろ。で、弟が『そろそろ、終わりにし
たいんですけど』と言うと、風戸君、大慌てでクイズを始め
るらしいんだよ。
PXB:クイズ?! どんな問題出してくるんだ。そのバケモンは?
I君:それがよー、全部自分のカミサンに関するクイズなんだっ
て。例えば、『キミの出身地は?』とか『キミの得意料理は
なーーーーんだ?』とか。
PXB:はあ?
I君:で、出身地聞かれて、弟は『東京です』と答えたらしいん
だ。すると、『ブーーー。答は愛知県です。オーバー』なん
て言って来るんだって。弟は赤の他人から、自分の出身地を
思いっきり否定されたんで、むきになって『冗談じゃないっ
すよ。生まれたときから東京っすよう』って言ったらしいん
だ。そしたら『キミ』というのは、風戸君の奥さんの名前な
んだって。
PXB:わっはっは。なんなんだ、そのバケモンは。最初から言え。
I君:まあ、そんなわけで、トラックに乗っているときは、新人の
ドライバみっけては話しかけ、降りるとトランシーバで奥さ
んとずーっと話しているらしい。それを、パチンコ屋のトイ
レでみたんだな。
PXB:本格的にあぶねえなあ。風戸君は。
I君:まあな。それで弟から聞いた話で一番笑えたのが、お盆休み
に運送会社の仲間が10人くらい集まって、九十九里に海水
浴に行ったんだって。その中に風戸君も入っていたらしいん
だけど、出発前に弟にいきなりトランシーバ渡して来たん
だって。
PXB:ふーん。
I君:そして、『君の車が先頭で、ボクの車が最後尾だから、おた
がいにグッド・コミニケーションを取ろう。オーバー』っ
て、相手が目の前にいるのに、オーバーを付けてんだ。一人
で大分舞い上がっていたらしいよ。
千葉に向けて、出発進行したんだけど、ひっきりなしに風戸
君の通信が飛び込んで来るんだって。
PXB:がっはっは。風戸君はなんて言ってくるわけ?
I君:相も変わらず、『朝ですねえ。オーバー』とか『ほんとはキ
ミも来たがっていたんですよ。オーバー』とかどうでも良い
ことばっかり言っているんだ。
ところが、弟の車に乗っているみんなが、ある異変に気付い
たんだ。
PXB:どんな、異変なんだよ?
I君:なんでも、風戸君の通信の時は凄い風の音がして、その上な
んか苦しげに喋っているみたいなんだ。
PXB:なんだったんだよ?
I君:何か変だぞって、カーブの時、後ろを確認したんだ。そした
ら3台後ろに、小汚いラッタッタが走ってんだ。そんで、運
転手がトランシーバ持っているのを、発見したんだ。
PXB:すると、風戸君の車は、原チャリだったんかい。
I君:そうなんだよ。皆で大笑いしているうちに、風戸君のチャリ
をぶっちぎっちゃたらしくて、しばらく経ってから風戸君か
ら、『み、みんなの車を見失っちゃいましたっ、オーバー』
って泣きそうな声で通信が入ったんだって。
PXB:わはははははは。
I君:この話には、まだ続きがあってさ。その通信中にいきなり
ガッシャーンと音がして、風戸君の声が聞こえなくなったん
だってさ。そんで少し経ってから『非常事態発生。チャリン
コのおばさん轢いちゃった.....オーバー』って声が聞こえ
てきたんだと。ガッハッハ。
PXB:そんで、風戸君はどうした?
I君:Uターンして家で寝てたらしいぞ。
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PXB